太陽の光がさす森の中、 岩沢 彰人(いわさわ あきと)は1人戸惑っていた
―――あれ?ここは・・・森の中?
首を捻る彰人のすぐ隣を1組の親子が歩いていった。
5,6歳位の男の子と、その両親であろう大人2人。
子供は満面の笑みを浮かべながら、両親を手を引き、急かす様にして歩いていた。
両親は自分たちの子供に手を引かれ、苦笑を交えた微笑みを浮かべながら息子との
日光浴を楽しんでいた。
―――!!?
そして、この瞬間彰人は全てを理解した。
これは自らの夢だということを……
―――全く、選りにも選って最悪の夢だなんて……
そう考えている間にも目の前の親子はどんどん先へ進んでいく。
時には両親の手を離し、1人走り出す。時には自らの親のもとへ駆け寄り、その手を
しっかりと握る。この男の子の胸に収まりきらなかった喜び、楽しさ、そういった心
の弾みは外へと溢れ出し、行動として現れる。
そしてその心は周りの者の心さえも弾ませる。
……この夢の終わりを知っている彰人以外は。
―――ここで終わってくれれば、とてもいい夢なのに……早く覚めてくれ。
しかし、彰人の意識とは関係なく、夢は続いていく。夢の中には自分が「これは夢だ」と気付いた時、
その夢を自分の好きなように変えられる事があるが、この夢はそのような事は出来ず、精々がこの家族の
周りを歩き回る位しか自由を許されていなかった。
その後も家族は歩き続け、やがて分かれ道に辿り着いた。両親は右の道に歩を進めたが、男の子は
何の迷いも無く左の道へ走り出した。2人は少し驚いたように顔を見合わせたが、その顔はすぐに「今日くらいは
好きにさせてやろう。」と言わんばかりの微笑みに変わり、息子を追って左の道を進み始めた。
―――だめだ!・・・そっちの道は……
彰人がその夢の結末を想像してしまったからだろうか。唐突に今までの映像が遠退き、それと入れ
替わるように新たな映像が映し出された。
それは、地獄絵図。つい今まで生きた人間だったとは思えないような、無残な姿になって殺された両親。
地面、草全てが血に染まった赤い空間。
その光景をまざまざと見せ付けられ、正気を失い、人だった物への吐き気と共に気を失った男の子。
そして……それら全てを行い、この家族の時間全てを奪った2人組みの男。
―――あ…あぁ……ああああああぁぁぁぁぁ……
それらを一瞬の内に見せ付けられ、虚ろな声を上げる彰人だが悪夢は終わることを知らなかった。
地面に横たわっていた2人の死体と男の子が突然動き出したのだ。
しかし、目は光を失い手からは血が滴り、それが生きてはいない、または生気が宿っていない
ことは誰の目から見ても明らかだった。
それと同時に、死体の周りに出来ていた血の海も動き出した。その血たちはあり得ない動きで這い続け、
木を上り、空へと染み込んでいった。今の今まで雲ひとつなかった青空は瞬く間に紅く染め上げられ、
夕焼けとは違った空になった。
前を向けば3人がまるでゾンビのように、上を見れば血に染まった夢、紅い青空。
―――うわあぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!
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悪夢はそこで終わり、彰人はベッドから飛び起きた。
「ハァ…ハァ…ハァ…やっと……醒めた……」
外はまだ暗く、時計を見れば午前3時半を示していた。
―――全く、もうすぐ高校生になるのにまだこんな夢を見るなんて。
たとえ何歳になろうと悪夢は消えることが無いと知りながらも、ついこんな事を考えてしまう。
「でも……」
彰人は窓の外を見ながら考える。
―――今の悪夢だけは忘れるわけにはいかない。生きている意味を失くさない為にも!
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