紅い青空



孝太たち一行が昼食を取っている頃、虹の川孤児院。

その孤児院の食堂で、小学生らしき二人が椅子に腰掛けて足をぶらつかせながら話をしていた。

「彰人兄ちゃんたち遅いねー。」

「彰人兄が部屋で寝ちゃってたからなぁ。高校の先生に遅刻するなって怒られてるんじゃないか?」

暇そうに話す女の子に対し、すぐ隣にいる瓜二つの顔をした男の子が答える。

男の子の方もまた暇そうで彰人の本棚から拝借してきた本を流し読みしている。

「ねぇ、みーつーるー。何かして遊ぼうよー」

【童話・めいすかい迷作劇場】と書かれた薄い本の後ろから女の子の顔が突然出てきて男の子に言った。

突然現れた同じ顔にミツルと呼ばれた男の子は、本をテーブルの上へ置くと、うんざりしたように

「遊ぶっていったって何も出来ないじゃないか。将棋もゲームも勝負がつかないんだから」

「うっ・・・でも、大富豪とかなら!」

「2人じゃつまらないじゃないだろ?俺たち2人意外に大富豪のルール知っている奴いないし。

第一みんな遊戯室で巨大パズルやってるぜ」

双子である彼らはお互いが同じことを考えてしまい、1対1で戦う遊びは大抵勝負が付かなかった。

実際、先ほどまで将棋を指していたのだが、3回戦中3回とも千日手になってしまい、飽きたばかりだった。

他の子供達が今熱中している巨大パズルは、2人とも以前完成させていて、本当に何もする事が

無くなってしまい、2人は仕方が無く食堂に来た。

「光(ヒカリ)だって本でも読んでればいいだろ。咲季姉の本棚ならファンタジーとかもあったぜ?変な本も

少しあったけど……」

ミツルは咲季の本棚にあった【漢は拳で語り合え!】を思い出しながら女の子――ヒカリに薦めた。

「そうだね、咲季姉ちゃんの本なら読めそうなのもあるかも・・・」

「ひかりお姉ちゃん、お腹空いちゃった……」

ヒカリが言いかけた所で、先ほど遊戯室で遊んでいた子の一人が声と共に入って来て、その子の後ろ

からもぞろぞろと食堂に雪崩れこんできた。

彼らの視線は全てヒカリへと――正確にはヒカリが作ってくれるであろう昼食へ向けられている。

そんな眼差しを受けて、ヒカリもまた暇つぶしが出来て嬉しいと言わんばかりに立ち上がり、

厨房の方へと歩き出した。

「そういえばもうこんな時間か。光、手伝おうか?」

ミツルは時計を一瞥した後、ヒカリに尋ねた。「じゃあ、お願い」と返って来たのを確認するとヒカリに

続いて厨房へ入った。

ミツルが厨房へと入ると、ヒカリは自分のエプロンをハンガーから外すところだった。孝太と咲季の

エプロンの直ぐ隣にある一回り小さなそれを2つ取ると、

その内の1つを後ろを見ないで放り投げた。

だが、ミツルはその投げられた自分のエプロンを驚きもせずに掴み、何事も無かったかのように

下ごしらえを始めた。

「ひかりお姉ちゃんとみつるお兄ちゃんって息ピッタリだよね」

「やっぱりお名前が同じだからなのかな?」

そんな2人の動きを厨房の外から見ていた子達がそう囁き話をする。

彼ら2人が双子だという事は孤児院全員が知っているのだが、やはり「阿吽の呼吸」を目の前で

見られるのは楽しいのだろう。

毎回目を輝かせながら料理する2人を眺めている。

当の2人はそんなことは知る由もなく、時折雑談を交わしながらまるで打ち合わせをしていたかの如く

食事を作っていく。



そうして30分後、約15人前の焼きうどんが子供たちに囲まれていた。

どの子供たちも小皿に盛られたうどんを自分の口の限界まで頬張っている。

「孝太お兄ちゃんのご飯も美味しいけど、ひかりお姉ちゃんのご飯も最高だよね」

『だよねー』

先ほどから一心不乱に頬張っていたうどんを飲み込むと1人の男の子がそう言って、他の子供たちも

それに賛同した。

「ありがとー。でもそんなに慌てなくても、まだいっぱいあるからね」

「あんまり詰め込みすぎて喉に詰まらすなよ?」

対するヒカリとミツルは、そんな子供たちを見て苦笑しながら彼らをなだめた。

皿に盛られたうどんがあらかた無くなった頃、玄関から「ただいま〜♪」と、院長の声がして、その後から

孝太の弱弱しい声が微かに響いてきた。

「あ、孝太兄ちゃんたち帰ってきたー」

椅子から飛び降りるとヒカリは玄関に向かって走り出した。ミツルや、他の子供達もそれに続く。

真っ先に飛び出したヒカリが玄関で見たものは、相変わらずの院長と師範。袋が腕に食い込み、痛々しい

状況となっている孝太。そして、

「あ!修一兄ちゃんだ!」

修一を見るなり、ヒカリは目を輝かせながら叫んだ。その声に「修一兄だって!?」と、後ろからミツルの

叫び声も響いてきた。

「よっ空野兄妹。元気にしてたか?」

ヒカリの叫び声に耳を塞ぎながらも、修一は笑いながら応えた。

「久しぶりだなぁ。何時以来だ?お前達2人の同じ顔を見るのは。…半年?いや、もっとか?」

「随分久しぶりのようですね。それよりも、皆お昼ごはんはもう食べましたか?」

指を折りながら自問自答する修一を見て苦笑しながら師範は尋ねた。

その横では教科書を降ろして座りこんでいる孝太が、別の子供に「孝太兄ちゃんだいじょうぶ?」と、腕を

撫でられていて、その様子を院長が面白そうに眺めている。

「うん、もう食べたよ…あっ、お皿片付けなくちゃ!早く片付けて修一兄ちゃんと……」

「それならあたしがやっておくから大丈夫。光ちゃん、みッちゃん。修一君と遊んでいていいよ♪」

修一兄ちゃんと一緒に遊ぼうよ。と、続く筈だったヒカリの言葉を遮って院長が応えた。

「院長…みっちゃんはやめてくれよ……」

「アハハ、ゴメンゴメン。ほら、早く遊んできなよ♪」

「院長、ありがとー。ならテーブルの上に焼きうどんのお皿があるからお願いね」

ヒカリの言葉を聞いて、院長は「りょうかーい」と片手を挙げて応えながら食堂に向かっていった。

「よし!じゃあ遊ぶか!お前達なにしたい……」

『ただいま〜』

修一がミツルに何をして遊ぶかを聞いた瞬間。玄関の扉が開いて彰人と咲季が帰ってきた。

2人は、玄関に集まっている人数に少し驚き、目線を動かすうち、僅かにこちらを睨む孝太が視界に入り、

「あ……思い出した。教科書だ…」

今まで何を忘れていたのかを思い出した。


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