紅い青空



同時刻、虹の川商店街。

彰人と咲季の2人と別れた孝太達一行は、この商店街で買い物をしていた。

修一と孝太は師範の持っていた買い物袋を預かっていて孝太にいたっては彰人が残した3人分の教科書

を持ちながら歩いていた。

「さて、今日の晩御飯は何にしますか?孝太君」

「出来ればボリュームのあるものを頼むぜ」

修一の要望に少し考え込む孝太。そして直ぐに顔を上げると

「なら炊き込みご飯と豚汁にでもするか」と告げた。

「よし、そうと決まればさっさと買いに行こう!俺荷物持ちでもなんでもするッスよ!」

修一は先ほどから異様にテンションが高い。彼にとってみれば、

ヘタなレストランよりも美味しい食事を親友達とワイワイ食べる最高のイベントなのだ。

「では、修一君も居ることですし今日はお米も買いましょう。それにお野菜も」

「師範、それは……」「了解ッス!任せてください!!」

少々青ざめた顔で止めさせようとした孝太の声を、修一の大声が掻き消した。

何かを諦めた様子の孝太。相変わらずテンションの高い修一。終止笑顔だった師範の3人は、

「さ、そうと決まれば早く行きましょー♪」

と、先ほどから面白そうに見ていた院長の声で、まず手始めに八百屋へと向かって歩き出した。


そして30分後、そこには両手で抱えなければならないほど食材の詰められた

買い物袋を携えながら歩く修一と孝太がいた。

「おい、コウ……何なんだこの量は。こんなの聞いてないぞ」

「だから俺は止めようとしたんだ……」

フラフラとしながらも器用にバランスをとりつつ修一が文句を言う。

しかし、虹の川孤児院の買出しは本来、彰人、咲季、孝太の3人がかりで行う。

それを2人で、しかも孝太は別で教科書も持っているのだからこの状態はむしろ必然とも言える。

「それにしたって多すぎだろう……いくら30人分だからって。大体この量なら業者に直接頼んだ方が安い

だろう……」

一般的な家庭の冷蔵庫をそれだけで一杯にしてしまいそうな量の食料を 買い込んだのだから、修一の言

い分も最もである。しかし、

「うちはこの商店街にある程度支援してもらってるんですよ。なのでここでの買い物は普通の3分の1以下

にしてもらってるんです」

「もしも商店街が協力してくれなかったら孤児院はきっと閉鎖してるわね♪感謝感謝。ま、だからちょっと

位重いのは仕方ないのよ♪」

師範と院長の言葉に最早黙るしかない修一だった。

「さぁ、後はお米ですね。これが最後ですから頑張ってください」

師範の声に荷物もちの2人は黙ってついていくしかなかった。

更に10分後、修一が「もう駄目だぁ!」と根を上げたとき、2人の視界は買い物袋で完全に塞がってた。

「そうですね、ではどこかで休憩がてらお昼でも食べましょう。孤児院の子達の分はヒカリちゃんがいます

から安心ですし」

「もしもの時はみっちゃんもいるし大丈夫でしょ♪」

ヒカリとみっちゃんと言うのは孤児院に住む双子の兄弟だ。

彰人たち3人や修一にとても懐いていて、今朝彰人に話しかけた小学生がその2人だ。

2人とも年の割りにしっかりとしていて、孝太や師範がいない時はこの2人が孤児院の食事を作っている。

院長の言ったみっちゃんというのは兄のミツルの事で、よく「そんな女みたいな呼び方は止めてくれ」と

院長によく怒っていて、妹のヒカリが「いいなぁ、そんなかわいい呼び方してもらえて」と、羨ましがっている

光景が孤児院ではよく目にすることが出来る。

「そういえば、俺前に行った時ミツルと今度遊ぼうって約束してたんだった!」

突然修一が声を張り上げてそう言った。

「よし、昼飯食って戻ったら目いっぱい遊んでやるか!」

「出来ればそうしてあげて下さい。きっと喜びますよ」

約束を思い出して、テンションの戻った修一は一行と軽い昼食を喫茶店でとった後、帰路についた。

「なぁ、修一。元気が戻ったんならこの教科書1つ持ってくれ」

「何言ってんだよ。それはコウたちの教科書だろ?俺はこの卵とかが入った袋を持つので忙しいんだ」

「恨むぞ…彰人、咲季」

その後、孤児院に帰った孝太の腕にはくっきりと袋の食い込みが残り、30分ほど痺れてろくに動かす事が

出来なかった。


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