紅い青空



虹の川市の西側にある閑静な住宅街。昼間12時ごろという時間帯のせいか、歩道には1組の親子が歩い

ているだけで他には誰も居なかった。

母親と4歳くらいであろう男の子。その親子の後ろに潜む2人組みの男達を除いては。

「あの親子、やっと2人きりになってくれたな」

「あぁ。あいつら、近所付き合いが多すぎるんだよ。ま、お陰で1時間半も長生きできたんだ。もう思い残す

事は無いだろう」

大柄な男のぼやきに、細身の男が答える。その目線の先にいる親子は、つい先ほどまで近くの小さな公

園で他の親子と立ち話をしていた。その間ずっと待ち続けて痺れを切らしているのだろう。既に消音器の

付いたライフルを準備していた。

「さっさと終わらせて早く戻りたいんだよ!太陽は眩しいし昼間からの仕事で眠いし。そんな中でこの張り

込みは地獄だっての!」

元々軽い性格の上、待たされたせいもあるのだろう。細身の男の愚痴は止まらない。ライフルの準備が終

わったのにも関わらずブツブツ文句を言い続けている。

「全く……張り込んでる間にコレの準備できれば2人きりになった瞬間ぶっ放せるってのに……大体なんで

ターゲットと150メートルしか離れられないんだよ!そのお陰でこっちは警戒して準備できないんだぞ」

「仕方ないだろう、時間が無くて狙撃ポイントを探せなかったんだ。って……お前のお喋りのせいでまたあ

の親子話し始めたぞ!」

大柄な男の言葉に慌てて前を見た細身の男の目に映ったのは、他の家の玄関の前で中年の女性と談笑

する母親の姿だった。

思わず暴れたくなる衝動を必死で押さえつけ、その会話が終わるのを必死で待っていた2人。だが、その

時は早々に訪れた。

空腹に耐え切れずに男の子が母親を急かし始めたのだ。先ほどまでは公園で友達と遊んでいたが、それ

を中断したのも空腹からだった。また後で遊ぶ約束をして帰る途中、母親が他の人と話を始めたのだか

ら、男の子にとって面白いわけが無い。お腹空いたと騒ぐ自分の子供を見て母親は、苦笑を漏らすと会話

をやめて再び帰路に着いた。

喜びながら歩き出す男の子とそれについて行く母親。しかし、それを見ていた細身の男は子供以上に喜ん

でいた。

「よくやったチビガキ!これでやっと帰れるぜ。よし、ご褒美にお前はもう15秒長生きさせてやる!おい、も

う周りに誰も居ないよな」

「あぁ、半径100m以内に人の気配は無い。もう喋るな。早くやれ」

「OK、解ってる」

興奮を抑えられないと言った声で呟くと、細身の男はライフルを素早く構え、母親に狙いを定めた。特製の

消音器が付けられたライフルから打ち出された銃弾は「パスン」と気の抜けたような小さな音を立てて母親

の後頭部を確実に打ち抜く……筈だった。

「なっ……!?」

しかし、その銃弾が母親を打ち抜く事は無かった。男が引き金を引いた瞬間に路地から高校生位の子供

が2人現れ、その内の1人である女が手の甲で銃弾を叩き落したのだ。

弾叩き落とされた時に甲高い音がしたことから、女の方はガントレットのような物を付けているのだろう。し

かし男達が驚いたのはその事だけではなかった。

一瞬で弾丸を見極めて叩き落す人間離れした少女と、彼女と一緒に現れた少年を呆然と眺めながら大柄

な男は呟いた。

「おい………気配を調べてから5秒くらいしか経ってないんだぞ?それなのになんであのガキ共はここにい

るんだ……」

「お前が気配を読み違えた。あいつらが100mを5秒で走れる。あいつらが気配を完全に消せる。そのどれ

かだな……」

細身の男もまた、目の前の状況を信じ切れていないようだった。そして、突然現れた少年と少女――彰人

と咲季は、そんな男達を横目で見ながら話をしていた。

「あの2人、まだ裏に来てから余り経ってないみたいだ。強襲するときに気配を消すのは当たり前の事だし

100m5秒だって裏じゃ並くらいなのに」

「ホント彰人って地獄耳よね。あいつ等そんな事言ってたの?」

「うん、大柄の男が気配を読み間違えたんじゃないか?って事も言ってた。でも腕は悪くないみたいだよ。

咲季が弾を叩き落としたって事に気付いてた様だし」

「それ位見分けられなきゃ裏じゃ瞬殺されるだけよ。それよし、さっさと移動しましょ。ここじゃお互い暴れ

られないでしょうしね」

咲季の言葉で2人はこの時、初めて男たちに顔を向けた。そしてその目に宿った殺気と嫌悪感を隠そうと

もせずに男達へと放った。








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