紅い青空



「……ッ!?あいつら裏だと?おい、戦闘態勢になれ!フルパワーだ!」

2人の殺気を受けて初めて相手が何者かを知った大柄な男は叫んだ。相棒もそれに答えて

「了解!ったく、裏ならあの動きも納得だぜ!!」

と答えると男達はポケットから注射器を取り出し、寸分違わず腕の静脈に刺して中の液体を流し込んだ。

そして全速力で後方へ走り出した。

「なんだよあいつ等。僕らの事を裏なんて言いやがった!直ぐに締め上げて訂正させてやる!」

「そうね。……ってそんな事より早く追うわよ!薬を使わせたんだから直ぐに戦闘モードに入るわよ」

言うが早いか、男達は際限なく速度を上げ続けて、もう豆粒のようになっていた。

「よし、早く追いかけ……うわっ!?」

そういって彰人が足を前に出した瞬間に、前にいた細身の男は反転し彰人に向かってライフルを撃った。

一直線に彰人の眉間へと飛んでくる銃弾を、彰人は寸前で避けると袖の中に入ったままの刀でその銃弾

を弾き落とした。彰人はその銃弾をポケットに仕舞いながら呟いた。

「危ないなぁ、こんな街中で撃つなんて。ばれないように回収するコッチの身にもなれって言うんだよ……」

「仕方ないじゃない。誰だって今死ぬよりはばれる方がマシなんでしょ。それより、早く追いかけるわよ。

もう見えなくなっちゃってるんだから」

「了解……コッチだ。咲季、付いて来て」

彰人が促すと、2人は今度こそ男達を全速力で追いかけた。


それから10分間、2人は男達を追いかけ続けた。途中、細身の男が撃つライフル弾を全て弾き飛ばして

回収し、辿り着いた場所は、既に虹の川市を外れた雑木林の中だった。

今、彰人たちの目の前には大柄な男1人が仁王立ちしていた。細身の男は、恐らく離れた位置から2人を

狙っているのだろう。彰人の感覚にも細身の男の気配は引っ掛からなかった。

「ここならもう大丈夫だな。咲季、いくよ。」

言うと彰人は師範にもらった刀を袖から取り出しベルトのリングに鞘を通した。

「まさかこんな所で裏と殺り合う事になるとはな。いくぞっ!」

大柄な男もソードブレイカーと呼ばれる短剣を取り出すと彰人に向かって突っ込んだ。

「僕らは裏じゃないよ!」

彰人は右手の刀を抜きながら男にそう叫ぶと、男と対峙すべく身構えた。そして男と肉薄する瞬間、

「ッ!?」

突然細身の男の気配が現れ、斜め後ろから銃弾が飛んできた。

バックステップでそれを回避した彰人は、その瞬間に咲季が大柄な男と接触したのが見えた。

男のソードブレイカーを左手の甲で受け止める咲季。2人の間から金属が接触した甲高い音が響く。

「彰人!」

男と向き合ったまま、咲季は叫んだ。その声に咲季がどんな意味を込めたのかを一瞬で察知した彰人

は、「了解!」と返すと雑木林の中へ物凄い速さで消えた。

短剣と篭手がギリギリと軋む音をひとしきり奏でた後、2人は互いに突き放して体制を立て直した。

しかし、咲季の方には突き放された瞬間に銃弾が再び襲う。しかも、先ほどとは違う方向から飛んできた。

それも、今現在対峙している男の真後ろからだった。移動した方向と同じベクトルを持った銃弾に対し、

咲季はそれを自らの篭手ではじき返す他無かった。

「いいのか?あいつはそう簡単には捕まらないぞ。仮に捕まったとしてもその頃にはもうお前は消えて

るさ。この俺によってな!」

いいながら男は第二撃を叩き込んだ。全体重をこめた突き出されたそれに対し、

銃弾を防ぐ事で体勢の崩れた咲季は何とか防ぐ事が出来たものの、大きく弾き飛ばされた。

「きゃあっ!」

しりもちをつく咲季に男は三度攻撃を仕掛ける。更にライフルの狙撃も今度は咲季の左から襲う。

その様子から男達は、目の前に居る少女の消滅というこの戦いの結末を確信した。しかし

「もう駄目!我慢の限界!」

そう叫ぶと咲季は、しりもちをついた体勢のまま銃弾を弾き飛ばした。

今まさに切りかかろうとしている男の方へ向かって。

「……何だと?」

慌てて銃弾を避けると、男達は信じられないような目で咲季を見た。

驚きのあまりか、細身の男からの狙撃もやんでしまった。

今まで防戦一方だった敵が繰り出した最初の攻撃が、味方の銃弾を利用した攻撃だったのだ。

今までも弾を全て弾いていたのだから偶然とは考えにくい。

突然強くなった敵に対し、男達は動く事が出来なかった。

そんな男達の心境を知ってか知らずか、咲季は愚痴をこぼす様な口調で喋り続ける。

「全く……大体あたしが囮約なんて出来るわけないじゃない。彰人には悪いけどコッチはもう終わらせちゃ

おっと。……という訳でオジサン、悪いけどもうやられてる振りなんてしないからね?」

その瞬間から、咲季の周りの空気が一変した。

「……!?なんだコイツ。やば過ぎる……グハァ!」

警戒態勢を取りながら男が様子を伺っていると、咲季が今までとは比べ物にならない速度で接近し、男の

鳩尾に拳をぶち込んだ。男はその瞬間、一般人ならそれだけで内臓の半分を潰されるような衝撃と共に

吹き飛ばされた。

先ほど注射した薬の効果によって、通常ならありえない肉体強化を施されていたから耐えられたものの、

それでもこのダメージは二十歳前の女から受けるダメージとは到底思えなかった。

ゲホゲホと咳き込む男。しかし、休ませる時間を咲季は与えなかった。

「さぁ、どんどんいくわよ!」

言うと咲季は、機関銃のように拳を打ち続けた。

男はそれを防ぐだけで精一杯……いや、防ぎきれずにじわじわとダメージを受け続けていた。

攻撃に転じようにも、その隙が無い。逃げようにも恐らく相手の方が速い。

頼みの綱である相棒からの狙撃も何故か無い。

半ば死を覚悟したその時、突然攻撃が止んだ。

最後の攻撃への準備と思い、恐怖しながら女を見ると、意外な事に咲季は攻撃の構えを説いていた。

最初で最後の逃げるチャンスだと思い、駆け出そうとしたが、その瞬間にまた咲季の気迫に当てられて

動く事が出来なかった。

咲季は、林の中を眺めながら、

「あーあ、時間切れかぁ。もうすぐオジサンの相方もここに来るわよ」

そう言い終えると同時に、遠くから鈍い金属音が聞こえだした。

次第にそれは大きくなり男がその音の方向を見た瞬間に、遠距離から狙撃しているはずだった細身の男

が飛ばされて男の目の前に転がってきた。彼の武器であるライフルが何故かボロボロで今にも壊れそうに

なっている。

男が驚愕で声も出ないでいると、細身の男が飛ばされてきた方向から、今度は彰人が走ってきた。左手に

は先ほど抜かれなかったもう1方の刀を握っていて、その刀は直刀と呼ばれるそりの無い刀だった。

「畜生!あの野郎、俺を見つけた瞬間からあの直刀でこっちの方向に吹き飛ばし続けやがった!

ガードは出来たがこいつはもう使い物にならねぇ」

細身の男が悪態をついている間に彰人はそのまま咲季の元へ走りより、2人の男達を見据えた。

「やっと捕まえた。苦労したよ、コッチまで飛ばすのは……そうそう、さっきの続きだけど、

僕らは裏じゃないよ!」

そういうと彰人は両手の刀を構えた。その後ろで咲季は「もうあたしの出番は無しかぁ」と呟いている。

「直刀を持った二刀流のガキと篭手を持った女……思い出したぞ」

構える彰人を知る目に大柄な男はどこか諦めた様子で呟いた。

「あいつら、いつもは3人組だったんだ。それが今日は2人しかいないから気が付かなかった……」

「おい、何言ってんだよ!あいつら一体何者なんだよ?」

細身の男は、既に諦めている相棒を激励するかの如く強い口調で言ったが、次の言葉で大柄な男と同じ

ような表情になった。

「あいつ等……中学生の癖に伊耶那美と殺り合ってる空間流だ」

「ッ!?」

「夢命空間流剣術……」

男達には彰人の周りに空気が渦巻いているのがはっきりと見えた。そしてこの戦いの結末も……

「だけど、殺さなきゃ死ぬだろうがあぁぁ!」

「!?そうだな!いくぞ!」

だが、彰人が動く直前に細身の男の叫び声を上げながら彰人に突進した。そして、それを聞いた大柄な

男も、短剣を掴みなおすと自分の相棒に続いた。

「二刀・三連裁ち鋏!」

しかし、男達が攻撃を開始する前に彰人は動いた。一瞬の内に男達に詰め寄ると、その両脇に向かって

物凄い速度で刀を振り払った。

その斬撃は両手の刀で挟み込むように行われ、それが2人に対して3回づつ振られたにも関わらず、男達

には合計で1回しかモーションが見えなかった。その1回でさえ見据えるのがやっとな程だ。

そして彰人は、斬った男達2人をまとめて蹴り飛ばした。

「グハァッ!!」

彰人の斬撃を受け、その直後に蹴り飛ばされた男達は悶え声を最後にぐったりと気を失った。








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