「ふぅ、終わった終わった。さ、早く帰ろう」
「お疲れ様。それにしても、いつもながら凄いわね」
刀を鞘に戻し、首を鳴らしながら戻ってくる彰人に咲季は、彰人の後ろを見ながら言った。
振り向くと、そこにはたった今彰人が斬った男達が転がっていた。
気絶はしているが、それ以外は全くの無傷で、腕が切れているどころかアザ一つ出来ていない男達が・・・
「外傷を与えずに痛覚だけを刺激する・・・そんな戦い方する人なんて彰人くらいしか居ないわよ」
「普通はそんな戦いするメリットなんて無いからね。でも、これが出来るようになるのに相当苦労したんだ」
彰人は男達を斬る時、男達の腕にある神経だけを刺激するように斬った。
実際に傷つける位置を斬るのではなく、神経が斬られたと感じるギリギリの所を狙って刀を振っていた。
そして、神経だけを狙った斬撃は、相手に斬られた時の痛みを与えるが、外傷は無い。
それが彰人にとっての空間流だった。
「前は峰打ちでしか戦えなくて、かなり危なかった時もあったけど今はそんなことも無くなったし
裏の連中が錯覚だけで死ぬわけ無いから」
「それもそうね。さてと、あの2人は放っておいて速く帰りましょ。よく考えたらあたしたち、まだお昼食べて無いのよ」
咲季は、彰人の話を聞きながら思い出したように言った。
お腹が空いている事については彰人も同じだったので、「そうだね」と頷くと、2人は雑木林を後にした。
「ねぇ、彰人。そういえば何か忘れてない?」
「咲季もそう思う?僕も何か忘れてると思うんだけど……」
その忘れている事は、2人が孤児院に帰り、恨めしそうな顔をする孝太と教科書の山を見るまで思い出される事は無い。
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